巷では、復習の重要性を説明するために、エビングハウスの忘却曲線なるものがよく引用されています。
「記憶は1日経つと相当薄れる!だから、こまめな復習が大事だ!」と。
「記憶したものは、1時間後に5割程度、1日後には7割以上忘れてしまう!」と。
ここに嘘がある。あると言っても、実験結果にではない。実験結果の読み取り方、そこから引き出される教訓に嘘がある。
そもそも、この実験では、いったい何を暗記したのでしょうか?無意味な文字列のつづりを暗記したそうです。
ここにポイントがあります。学校で勉強する内容は無意味な文字列ではありません。有機的な意味の連関を持っています。意味の連関がある場合、そのつながりを納得したときに、強固な記憶が形成されます。例えば東大の英語でも2011の第1問の英文に似た内容の話が含まれているようです。東大も、高校生に概念同士の関係を意識して学習してほしいと願っているのでしょう。人間の記憶は、必ずしも先の忘却曲線を描きはしないのです。勉強した内容を、概念同士の関係の中に位置付けられないときにだけ、忘却のペースが速くなるのです。
私の体感も、この考えを裏打ちしています。知識に対して納得感があり、既に持っている知識と上手く結びついたときには、ほぼ一発で覚えられます。ただの知識・単なる情報として処理されたものは、次第に記憶から薄れていきます。
ここから、まめに復習する勉強法は下策の中の上策でしかないことが導かれます。
上策は、関係性を意識した勉強です。歴史などであれば、物語を作るような感覚になる場合もあるでしょう。マインドマップのようにする人もいるでしょうが、私はピラミッド状の階層構造にするのが最上であると考えています。(別の機会に詳述します)
関係性は、勉強内容自体に内在するものであることが理想です。英文法には英文法の、世界史には世界史の、それ自身に固有な論理のようなものがあります。それに沿って勉強することが理想です。
さらに言えば、この論理に気付いたときに感動できる感性があれば、記憶はより強固になります。感情と結びついた記憶は長く残りやすいので、学習内容に感動できる好奇心を持つことも大切です。(詳しくは別の機会に)
次善の策は、勉強内容の外に、合理性を後付けすることです。具体的には、語呂合わせです。語呂合わせは、連関が見出せない内容に、強引に連関を作るテクニックです。しかし、教科全体を覆うような広い連関は作れないので、記憶の定着度も少し弱くなります。他には「ノートのここに書いてあったな」とか「あのとき先生がこんな雑談をしていたな」といった類の記憶も、これに当たるでしょう。
ここまでの勉強法ができていないときに、初めて復習をこまめにする勉強の出番がくるのです。その中では、復習しないよりは復習する方がずっとマシです。復習しないのが下の下、復習量で誤魔化すのが下の上です。
おそらく、勉強ができない人には、学習内容が無意味な文字列のように見えていることでしょう。心当たりあるでしょ?同じものを見ても、勉強ができる人には、豊かな広がりが見えています。暗記する前に、その時点で勝負はついているのです。
もちろん、まめな復習が有効な場面もあります。というのも、受験に必要な知識の中には、どうしても論理的な納得感が得にくいものがあるからです。例えば、英語の語法や文化史などが、当てはまるでしょう。これらの分野の背後にも、豊かな世界が広がっていて、独特の面白さがあるのですが、受験生がそこに行き着くことは至難でしょう。行き着くために必要な勉強量の多さと、出題量の少なさが割に合いません。こういうときは、反復で乗り越えるのが一番です。
また、復習する中で、今まで見えていなかった有機的な結びつきが見えてくることがあります。これこそ、復習のもっとも大きなメリットでしょう。ただし、この気付きは、準備していた者にしか訪れません。1度目に納得いかなかったその違和感を持ち続けて、頭の片隅で寝かせておいた人だけに訪れます。漫然と同じ内容を繰り返してはいけません。角度を変えて、ためつすがめつ眺めるのです。それこそが復習です。
ちなみに、僕は復習をほとんどしません。代わりに、同じ内容の別の本・参考書・問題集を読みます。
薄れかけていた記憶を、別の角度から引き出すと、記憶が強固になります。同じ知識を、違う文脈の中で再認することで、問題演習と同じ効果が得られます。受験では、以前やった問題と全く同じ問題が出題されることはほぼありません。そのときには、例えば文法問題なら、表面的には違う文章の中に、以前行った演習と同じ文法事項を見出す力が必要です。
ここまでに書いたことは、丸暗記の必要性を否定するものではありません。私は、丸暗記が必要な場面もあると考えており、昨今の暗記教育批判には否定的です。(これもいずれ詳述します)
また、復習をまめにすることで記憶を定着させるやり方でも十分に受験にも対応できます。ただし、問題の質が高く、教科数も多い難関国公立には対応しにくいでしょう。そして、受験が終われば、勉強した内容をほとんど忘れてしまいます。そして何より、勉強そのものを楽しめないです。
さて、結論をまとめると「復習量を増やすのではなく、忘れにくい覚え方をしよう」です。