top of page
検索
  • daikatsumata54

学歴と家系 〜努力と自己責任〜


以下のようなツイートをしたところRTが1000を超えて困惑しているので、私の考えているところを整理して文章にします。

「志望校選びの目安。家族、親戚で一番学歴がいい人が行った大学の一つ上のレベルが、目指せる限界に近いです。色んな家庭の生徒を教えてきて感じることです。二段階上に受かることはかなり珍しい。残酷な現実だが、家庭の影響は大きい。それが遺伝によるものなのか、環境によるものか分からないが、」

後ろには続きがありましたが、伸びたのはこれだけなので、ひとまずこれだけ載せます。 反応は賛否両論という感じです。私自身、説明が不正確だったところ、認識が誤っていたところもありますし、RTの反応の中には誤読しているものもあるので、色々と議論を整理したいです。

僕が言いたかったことを大雑把にまとめると、受験勉強は個人の努力如何で成果が決まるように思われているが、実際のところ親族の学歴との相関も強く、本人だけでどうしようもない部分も大きいということです。 そして、メッセージとして受験生に伝えたかったことは、「努力して結果が出なくても自分を責めることはないかもしれないよ」ということです。

私が家庭教師で色々な家庭を見てきた結果、親族の学歴はあまりバラつかないことに気付きました。(客観的な指標がないので「あまり」と言った主観的な表現になってしまい、議論が不正確になってしまいます。以下も同じようなことがありますがご容赦ください。) 例えば、親戚全員が高卒とか、ほぼ全員が有名大学といった家庭は珍しくありません。東大レベルから小卒中卒レベルまで正規分布になっている家系はまずないのではないでしょうか。

注意が必要な点は、現在学生である世代と、両親世代、祖父母世代では大学進学率が大きく異なるので、一概に比較はできません。今の方が、同じ大学なら難易度は下がっていると考えていいでしょう。 親やそれより上の世代で、高卒以下の場合は、その内実に大きな差があるので一括りにして考えにくいです。「親戚には高卒しかいないが、私1人だけが有名大学に進学しました」という反応は意外に多く、私も考えを改めました。だから、二段階以上はかなり珍しいという私の発言は間違いですね。すみません。ただし、その場合は、親戚も中高の成績は良く、経済的事情などで進学を諦めたのではないでしょうか? この点に関してはサンプルが少なくよく分かりません。

両親の学歴と子の学歴に相関関係があることは研究で明らかになっていると、リプライで教えてくれた方がいました。苅谷剛彦氏の研究だそうです。私も図書館でパラパラと読んだ記憶があります。 相関関係があるうことが明らかだとして、次に問題になるのは、それがどこまで強いのかです。そして、因果関係がどこにあるのかです。因果関係については主に遺伝か環境か(氏か育ちか)が問題になるでしょう。

両親とだけ比較した場合は、相関関係が見出せない場合も多いでしょう。その場合も、視野を広げてみると相関が見出せる場合もあるのではないでしょうか。親戚全体に目を広げれば、同じような学歴である場合もあるでしょうし、学歴は違っても小中の成績は近い場合などもあるでしょう。そうやって視野を広げれば、一見すると鳶が鷹を生んだように見えるケースでも、何かしらの兆しが見出せるケースが多いと予想しています。

遺伝か環境かという問題は難しいです。教育に関しては、対照実験が難しいからです。例えば、里子を研究すれば、分かることもありそうですね。遠い親戚と学歴が相関するなら、遺伝の要因が強いのかもしれません。

ところで、家系の中で学歴が同質化する原因には遺伝と環境の他に、結婚があると思います。結婚は様々な面で同質の人同士でなされる傾向があります。恋愛結婚ならそんなことないと考えるかもしれませんが、恋愛結婚の場合、多くは学校や職場での出会いがきっかけになるので、見合いよりも似た者同士が結婚する可能性が高いとさえ言えるかもしれません。

理論的な話は以上です。 「そんなことない!」という反論も多かったのですが、その裏には「そんなこと言うな」という感情が感じられるものも多く、その点がとても興味深かったです。 おそらく、「受験勉強は公正な競争で誰もが自身の努力に応じた結果が得られる」という前提が共有されていて、その公正さを否定することに反発する人が多いようです。 自由で平等な個人が、自助努力で成功を掴むというストーリーは近代以前に比べれば、望ましいものだとは思います。一方で、そこには負の側面もあると思います。私はその側面に注目を促したいと思っています。 完全に自由な競争が行われているとすれば、努力しないことないし努力しても結果が出ないことは本人の責任になります。結果が出なかったときに、自己責任の価値観に染まっていると、自分で自分を責めることになります。 学歴社会、学歴で人を判断することを支えている前提には、学歴が当人の努力・資質を反映しているという考えがあると思います。もし仮に、学歴と当人の努力にあまり関係がないという考えが共有されるようになれば、学歴による差別も減るかもしれません。

SNSで様々なアカウントを見ていて思うのは、ビリギャルのような存在に憧れるものの、結果が出なくて苦しんでいる人が多いということです。私の今までの議論を受けると、受験勉強には個人の努力ではどうにもならない要因も影響するので、自分を責める理由が減ります。「やればできる」と伝える優しさもありますが「やってもできないこともある」と伝える優しさもあると思います。ちなみに影響を与える要因は先に挙げた、家族の学歴だけではありません。住んでいる地域や通っている学校の雰囲気など様々な要素があります。 受験勉強は形式的には平等ですが、実質的には平等ではありません。後者の部分に蓋をして生徒に夢を見させるというのも一つの方法ですが、私は後者の部分も生徒に伝えたいと思っています。また、教師としても、教える側の力量で何ができて、何ができないか見極めるためにも、この辺りの事情は深く探求したいと思っています。 ただし、この考え方は恵まれた環境で結果を出せなかった人を辛い気持ちにさせてしまいかねないですね。この点は私も考えを整理できていないです。

もう一つ、学生に対して伝えたいことは、環境によって常識が違うから、考えを相対化できるように頑張るといいよ、ということです。特に、家庭の中の常識は、強く影響を受けるものである一方で、学生のうちにその影響に気付くことは難しいです。 私自身、母方の家系が運動神経がよいので、自分は運動神経が悪いとずっと思い込んでいました。実は中の上だと気付いたのは大学に入ってからでした。また、ソフトテニスで全中やインターハイに出られたらいいなぁと憧れていました。今になって、全中出場者のほとんどが小学生からテニスをしていること、インターハイ出場者でもかなりの割合で小学生から始めていることを知ると、私の憧れが無謀であったことを痛感します。私はテニスでは努力した割に結果が出なくてやるせない気持ちになり、勉強では努力した以上の結果が出てとまどいを覚えて、育ってきました。だから、努力が報われるかという問題には関心が深いのです。 家庭教師をしていると、教育に熱心な空気、勉強を重んじる空気がある家とそうでない家があることを感じます。その空気は子供の学力に大きく影響するでしょう。多くの人にとって、他の家庭環境をつぶさに観察する機会は少ないでしょう。だから、平等な競争があると信じやすくなるのでしょう。また、私はオンラインで色々な地域の学生を教えたことがありますが、地域による格差も大きいです。同じ市町村でも学区によって雰囲気は全然違います。こういう点も、多くの人にとっては見えにくいものだと思います。 同じスタートラインに立って競争が行われている、そして努力の量に応じて結果が決まるという幻想が生まれる原因は、身近に似たものしかいない環境にあるのではないでしょうか。

さらに、伝えたいことは、自分の努力の成果を受験結果だけで判断しないでほしいということです。同じ大学を目指すにしても、どの環境から目指すかによって難易度は大きく異なるからです。環境が厳しければ、目立つ結果でなくても誇りに思っていいでしょうし、環境に恵まれていれば、いい大学に受かったとしても謙虚になるべきです。志望校を選ぶ際も、自分が置かれた環境を見回してから選ぶと、自分にとっての難易度が分かってくると思います。高望みをするなという意見と取られた節がありますが、そうではありません。何が高望みに当たるかは、人によって違うものだと言いたかったのです。

話が広がって、私が普段から考えていることにまで及びました。以上のような問題意識を持った上での発言であると理解してもらえると嬉しいです。


閲覧数:996回0件のコメント

最新記事

すべて表示

君たちはどう過去問をやるのか ②入試直前期編

今回の記事では主に受験直前期での過去問演習のやり方を書いていきます。 試験直前期は過去問演習をして解き方を志望大学に合わせたものへと調整していきます。正しく分析ができていれば、過去問演習は3〜5年分で十分だというのが僕の考えです。特に私立志望の場合は受ける大学や学部の数がど...

君たちはどう過去問をやるのか ①受験勉強のスタート地点編

大学受験や資格試験で必ずやることの一つ、それが過去問演習だと思います。 でも、何のためにどういう意識でやっていますか?誰もがやることだからこそ、どういう意識でやるかで大きな差がつきます。 今回の記事では、僕が過去問演習をするときにどういうことを大事にしているかを紹介します。...

君たちはどう英文解釈をやるのか ②成長のステップ・参考書選び編

どういう段階を踏んで成績が伸びるか 構文解釈の習熟がどういう段階を経るものなのかを紹介していきます。まずは、全て理詰めで構文を取っていく段階です。「これが名詞だとするこれはOになる。Oになるとすると、こうなってここで辻褄が合わなくなる。ではこれは形容詞だろうか。形容詞だとす...

bottom of page